2017/05/29(月)マリーンズドキュメント

第11話 強くなるための道しるべ

香月一也

 まだ5月下旬だというのに、二軍球場に日差しは容赦なく照りつけた。今日もまた、肌をほんのり小麦色にした若い選手たちが灼熱のグラウンドに散らばっていく。
 試合中にピンチの場面が訪れたときには誰よりも先にマウンドに駆け寄った。投手の顔に滴る汗は暑さ以外のものも含んでいたけれど、ここが踏ん張りどころだ。精一杯の言葉をかけて、三塁の守備位置に戻る。
 香月一也の姿は、二軍のグラウンドで、ベンチで、以前よりも存在感を放つようになった。
 劣勢のなかで見た光は今も色濃く残っている。自分もあの選手のようになれるだろうか。背景には、ひとりの先輩がいた。

「ずっと大地さんが一軍でやっていたんです。ベンチが静かになりそうなときも、どんなに負けていても、雰囲気を良くしようと声を出していて、やっぱりすごいなと思いました。きっと、大地さんのような選手がたくさんいたら(チームが)強くなれますよね。だから二軍でも、投手が打たれたときや点をとられたときは、しっかりと声をかけるようにしています」

 香月が過ごした今季初の一軍生活は4月22日からの約半月だった。苦しいチーム状況のなかで自分は何をすべきなのか。とにかく元気を出せばいいのだろうか。ベンチで戸惑いを感じたとき、すぐそばに鈴木大地がいた。明るい声は途絶えることなく、劣勢のときこそ一段と大きくなって仲間を励まし続けた。それはベンチでも、グラウンドにいるときも変わらず発揮されていて、香月が二軍コーチから常々言われていた「マウンドで投手は1人なのだから、内野手が声をかけなければいけない」という言葉が実践されているのだと感じた。
 5月8日から香月は再び二軍行きとなったが、一軍の舞台で最高の手本を見ていたから、意識はすでに変化を遂げていたし、必ず自分のものにしようと心に決めたのだった。

 必要なことは自ら進んで取り入れていく。物怖じしない様は入団当初から備わっていた。
 2015年のちょうど今頃、二軍球場には福浦和也がいた。その打撃を見たプロ1年目の香月は、どうしても同じ左打者として話を訊きたくなった。相手は20年以上のキャリアを重ね、自分が生まれる前からプロ野球選手として生きる大先輩だ。18歳の新人が話しかけるなんて恐れ多かったが、同じ空間に居られる状況は当たり前ではない気がして、チャンスを逃したくない気持ちが上回った。近くまで歩みを進め、香月は勇気を振り絞って声をかけた。
「福浦さん、バッティングを教えてください」
 試合前のフリー打撃中の僅かな時間だった。肩の開きの指摘や、タイミングの取り方について丁寧な助言をもらった。すると、その日の最終打席で香月は中越えの二塁打を放ち、新たな収穫を手にすることができた。自ら行動した先には得るものがあり、躊躇すれば次はない。香月が質問を投げかけた翌日、福浦は一軍に合流した。もしもあのとき勇気を出さずにいたら、次いつグラウンドで顔を合わせられるかわからなかった。

 大阪桐蔭高からマリーンズに入団して間もない頃、家族親せき一同とテレビ電話を楽しみ、最後に画面の向こうの皆が『マリンに集う我ら』を合唱してくれた。そんな心強い応援団がいることを新人時代の香月が嬉しそうに明かしたことがあった。
 2年後の今、一軍を経験した香月には数えきれないほどの大声援が味方についている。優しい言葉も、発破をかける声も、グラウンド上で聞こえるものは「愛情だと思っています」と全て受け止めて力にする。ZOZOマリンスタジアムの情景を思い浮かべながら、もう一度あの場所に戻るため、鍛練の日々は気合いに満ちている。

「あの時期にチームの戦力として上げてもらって、悪いところも良いところも出たので、二軍でまた新たな気持ちで取り組んでいます。ここできちんと活躍して、次は一軍に定着します。一年一年が大事なので、まずは今年。悪い結果だったら終わりという気持ちでしっかりやっていきます」

 影響を与え合いチームは形成される。先輩の背中を見て学ぶように、これからも地図を片手にヒントを得て、強さを手に入れながら進んでいく。行く末にあるのはマリーンズの進化だ。今はその上り坂にいる。

長谷川美帆(千葉ロッテマリーンズ オフィシャルライター)=文 text by Miho Hasegawa