

今年2度目の石垣島。2月と11月では島の景色は違う。そして、西村監督も2月と11月では立場と顔が変わっている。千葉ロッテマリーンズを指揮する監督として、再び石垣島に戻って来た。
2月はノックバットを振り込む姿だったが、今回は縦横無尽にグランドを動き回る選手に熱い視線を送っている。ノックが終了すると、メイン球場からブルペンへと移動した。
西村監督は「ブルペンなんて、この立場にならないと見る事が無い」と慣れないブルペンでの居場所を探し、若手投手陣の投球を静かに見守っていた。
一昨年のドラフト一位の服部を見て「今まではチャンスを与える事が出来ていなかった。本当にいいボールを投げていたよ。それ以外の投手も良かった。全員使いたいよ」と慣れないブルペンで満足気な顔をしていた。
この日のメイン球場一塁側ベンチ上には、石垣島協力会が西村監督はじめチームへの激励の意を込め“新しい風を吹き起こし 石垣島から頂点へ”という横断幕が掲げられていた。
キャンプ初日のこの日は強風の中行われた。時にはバッティングゲージを倒すほどの突風も吹いていた。しかし、打撃練習では打球を風に乗せホームラン、そして場外ホームランを連発させていた。この打撃を見て西村監督は確かな手応えを感じたはずだ。
新しい風はまさに追い風だ。この風に乗り、新しい風を吹きおこしてくれるだろう。
(榎)
私事だがドラフト会議、記者会見、発表などが続き14日間ほどチームを離れていた。
11日に石垣入り。12日に久しぶりにチームに合流。すぐに今までのチームとはどこか違う雰囲気を感じた。日焼けして精悍になった選手の顔。引き締まった体。そんな表向きな部分はもちろん。なにか見えない部分での変化を感じた。あえて言うならば、なんであろう。いい意味で緊張感がある。ピリピリしている。そんな感じだ。ちょっとボッーとしていようものなら選手から睨まれる。そんな空気が漂っていた。
「みんな優勝という同じ目標に向かって練習をしてくれている。それをグラウンドの中から見ていてもヒシヒシと感じるよ。いいキャンプが出来ている」
久しぶりに再会した西村監督も手ごたえアリと言わんばかりの満足そうな顔で出迎えてくれた。現場の長は、誰よりもこの微妙は変化を感じ取っているようだ。
全体練習終了後も個別練習は続く。投手は走り、野手は室内に移って黙々とバットを振っている。若い選手は宿舎に戻っても夜間練習が待っている。シャドーピッチングに素振り。明日の栄光を渇望し、必死な姿にこちらは見守るのも気が引けてしまうぐらい。いつまでもその作業は続きそうなほど、集中した時間が流れていた。
「石垣キャンプもあと2日。千葉に戻ったら、石垣キャンプほどの練習は出来ないけど総仕上げの場となるよ」
一日中、立ちっぱなしだった監督は帰りの車で倒れこむようにシートに座り込んだ。長かった秋のキャンプは間もなく終わろうとしている。新監督の秋。新キャプテンの秋。一軍の舞台を目指す若手の秋。5位に終わった悔しさをぶつけたベテラン、レギュラー組の秋。それぞれの秋。7年ぶりに行われた秋のキャンプの成果が分かるのはまだまだ先。今から待ち遠しくて仕方がない。
(梶原)
千葉ロッテマリーンズ石垣島協力会の提案で練習後に地元メディアを集めての監督会見が催された。質問は、やはり地元出身の大嶺兄弟に関する内容のものが殺到した。
「祐太には来年は最低二ケタ勝利を期待している。本人も弟の入団を刺激に頑張ってくれると思う」
エースの清水直行がトレードで横浜に移籍。来年はローテーションの中心選手の一人となって欲しい。そのコメントから大嶺祐太に対する期待の大きさがうかがえた。そして弟の翔太に関しては次のように答えた。
「話題性はありますね。ただ、この世界は話題性だけでなんとかなるような甘い世界ではない。兄弟といってもライバル。高いレベルで競争をして欲しいと思っている」
指揮官は、あえて厳しい言葉を投げかける。そこにはドラフト5位から練習を重ね、這い上がってきた男だからこそ知るこの弱肉強食のプロ野球界の怖さがある。
プロの門を叩いて28年。これまで話題性溢れる新人選手を沢山見てきた。しかし、その中で輝しい実績を残すことなく静かに去っていった選手も沢山いた。華やかな世界ではあるが、その反面、厳しい現実もある。その事を本人たち、そしてマスコミ、ファンにも知って欲しい。だからこそ「甘い世界ではない」という言葉を発した。それは愛する息子にあえて厳しい言葉を投げかける親父のようでもあった。
会見は30分ほど続いた。地元メディアの活発な質問の連続に新生マリーンズ、そして大嶺兄弟への期待の高さがうかがえた。そして、西村監督の考え方をしっかりと感じ取ることが出来た有意義な時間となった。
この日、外はあいにくの雨。秋季キャンプは明日14日をもって終了。帰京となる。練習後には宿舎内の焼肉ダイニングレストランにて打ち上げの夕食会が催された。肉をつつきながら、みんな笑っていた。西村監督も嬉しそうだった。甘い世界でないからこそ、なにかを達成した時の充実感は大きい。様々な笑い声を聞きながら、そう思った。
(梶原)
鹿児島、そして石垣島での秋季キャンプを終えて空路、東京へと向かった。久しぶりに自宅に戻れるためか、どの選手もウキウキしているように見える。
「オレはドラフト会議出席のため、1日だけ家に帰ったけど、長い選手だと一ヶ月以上も家を空けているからな。キツいと思うよ」
西村監督の言う通り、長い選手だと一ヶ月以上も家に帰っていない。木村や服部など宮崎のフェニックスリーグに参加した選手は10月5日から旅に出ていることになる。薩摩川内からキャンプに合流をした選手が10月15日から。鹿児島・鴨池キャンプ参加者は10月20日から。シーズン終わってすぐに、1ヶ月近く家族と離れ離れの生活をした。
「秋から厳しい練習をした。だけど、これで春にどのような練習をしていくことになるか、大体のイメージもついただろうし、土台は出来たと思う。春のキャンプに備えてみんなしっかりと体を作ってくれると思うよ。なによりも無事にキャンプが終わったことが良かったよね」
そんな過酷な日々を耐え抜き、無事に帰路につく選手たち。空港の待合室で新監督は手ごたえを口にした。
選手たちは明日15日、つかの間のオフとなる。しかし、監督はそうはいかない。昼前に横浜からトレードで獲得した那須野、斉藤の入団会見に出席。その後、14時からは、ららぽーとTOKYO―BAY中央広場にて行われるトークショー(千葉東税務署主催)に参加する。
「休めない?大丈夫。心配ないよ。心配なのはオレのトークショーなんて誰も聞きに来ないのじゃないかということだけだよ」
西村監督はそう言って、おどけて見せた。
那覇空港を経由して羽田空港に到着した。南の島からの移動に、ちょっと肌寒さを感じた。空港にて出迎えに来た家族との再会を喜ぶ選手の姿も見られた。積もる話は山ほどあるだろう。明日はつかの間のオフ。ゆっくりとした時間を過ごして欲しい。
そして16日からは千葉マリンにて練習が再開される。入団テストでズレータが来る。前オリックスの川越も来る。薩摩川内組からは育成選手の角が合流する。西村マリーンズはまた新たなステージに突入する。
(梶原)
頼もしき大砲が入団した。
WBCでは韓国の4番も打った金泰均内野手。西村マリーンズの中軸を打つべく、期待されてのマリーンズ入りだ。
千葉市内のホテルでの入団会見前。西村監督は金泰均と昼食を共にした。日本料理店で初の対面を果たすとガッチリと握手を交わした。
「イ・スンヨプさんから、『監督はとてもいい人。あの人の下なら心配ない。よかったね』と言われました。監督と一緒に野球をするのがとても楽しみです」
04、05年と2年間、ロッテに在籍した大先輩のイ・スンヨプ(現巨人)の言葉を伝え聞くと、西村監督は照れくさそうに笑った。
「韓国では上下関係が厳しくて、監督は敬遠しがちなのかもしれないけど、私にはなんでも気軽に話しかけて欲しい。野球以外でもなにか悩みがあれば相談して欲しい。監督室をいつも空けて待っているからね」
指揮官の優しい言葉に、金泰均も子供に戻ったように喜んだ。そして、その後は日本球界の事。千葉ロッテマリーンズの事。質問攻めとなり、今回の移籍に賭ける熱意を語りだした。
「井口選手、サブロー選手、里崎選手、大松選手、今江選手、西岡選手。みんな知っています。特に井口選手は子供の頃の憧れの選手。ホークスの時から好きでした。日本の試合をいつも見ていた。日本の球場で早く試合がしたい。いろいろなチームのエースと対戦したい」
熱い言葉の数々。そして情熱は指揮官の胸にしっかりと伝わっているように見えた。
入団会見では独学で勉強している日本語も披露。その後は、球場を見学しフリー打撃中の選手の動きを目を輝せながら見守った。すぐにでも体を動かしたい。ウズウズする気持ちを抑えるのを我慢しているのは横にいる私にもはっきりと伝わってきた。
「イ・スンヨプさんは、この球場で場外まで打球を飛ばしたことがあるのだよね」
千葉マリンスタジアムの空中写真を見ながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。100キロを越す巨体。丸太のような腕。ひょっとしたら、もしかしたら。こちらの期待は高まるばかりだ。
金泰均は一度、母国・韓国に戻り、日本で練習を行うため早めに再来日する予定。西村マリーンズの命運を握る男は、すぐに日本に戻ってくる。
(梶原)
大観衆の前での父のスピーチはどう映ったのだろうか。ファン感謝デーの最後に行われた西村監督のスピーチ。スタンドには真剣に聞き入る監督の娘さん(次女)の姿があった。
「父のスピーチを聞いたのは引退試合以来だと思います。なにか、あの時を思い出しました」
イベント後、面会のため、家族は監督室を訪れた。普段はこの部屋に家族は入れないが、きょうは特別。前日20日に球団納会を終え、この日のファン感謝デーで一年の一つの区切りとなる。日頃、なかなか一緒の時間を過ごすことが出来ない家族に感謝の気持ちを込めて監督室に招待した。娘からスピーチの感想を聞くと監督も感慨深げになった。
「そうか。引退試合以来かもな。ファンの前で話をするのはね。あの時、娘は小学校2年生だったかな。今じゃ、大学2年。月日が経つのは早いなあ」
親子はじっと目を合わせた。西村監督の顔が父親の顔に戻っているのがよく分かった。そしても娘もなにかを言いたそうに父をじっと見つめていた。そして切り出した。
「なんか、お父さんではないみたいだった。別人みたいに見えた。ユニホームを着ると、いつも家にいるお父さんとは雰囲気が違うね」
そうりゃ、そうだよと言わんばかりに家族みんな笑った。監督室には幸せな時間が流れていた。
これから入団会見やイベント等の出席はあるがつかの間のオフに突入する。年が明ければ春季キャンプ、オープン戦、そして公式戦。新監督にとって、やることは山ほど出てくる。だから、今この短いオフにしっかり体を休めて欲しいと切に思う。12月には家族旅行を計画中だとか。西村新監督は英気を養い、いよいよ本格的な船出の時を迎える。
(梶原)
監督室に珍しい名前の芋焼酎が置かれていた。『人生ビリヤード』。福岡に住む知人が監督就任を祝って送ってくれたという。
「人生をビリヤードの球に例えて人の生き方、教訓が書いてある。オレも監督として、そうならないといけないと考えさせられているよ」
その焼酎のラベルにはこう書かれている。
「人生いろいろ。山あり、谷あり。社会の荒波に打たれてもひとつのことをやり遂げるには何事にも負けない強い意志と精神力が必要である。最後に残った一球。それが人生」
これから監督として新たな人生を歩む西村監督に対する知人の熱い思いがこの文面からもよく分かる気がする。監督もまたその知人の気持ちを理解し、じっと見入っていた。
「この焼酎は部屋のよく見えるところに置いておかないといけない。初心を忘れないようにしないとね」
人生ビリヤード。変った名前の芋焼酎は監督室のテレビの横に置かれている。目立つ場所に目立つ名前の焼酎が置かれている。鹿児島県は指宿市で作られたこの焼酎。きっとシーズンが終了するまで呑むことはないのであろう。勝利の美酒となるまでとっておくつもりのようだ。
(梶原)
去る26日、マスコミの方々との懇親会ゴルフがロッテ皆吉台カントリークラブ(千葉県市原市内)で催された。新聞、テレビ、通信社。これに西村監督、広報2名が参加。4組16名でのコンペとなった。これまでは広報と担当記者による小さなゴルフ大会はあったが、監督が中心となってテレビ、新聞を集めての大きなコンペはあまり記憶にない。これも監督の発案によるものだった。
「マスコミの方々にはいつもお世話になっているし、これからいろいろとお世話になる。いつも堅苦しい話ばかりではなかなか親交も深まらない。一緒にゴルフをやりながら、お互いが理解し合えるようになればと思った」
ロッテ担当記者などは、ほとんどがゴルフ未経験者。なかなか参加希望者が集まらないのではと多少心配されたが、監督の呼びかけに大勢が集まった。
当日は快晴。監督の朝一番のティーショットはフェアフェイの、ど真ん中へと綺麗な弾道で飛んでいった。マスコミの方はナイスショットもあれば、空振りあり。チョロありと珍プレー好プレーが入り乱れた面白い内容となった。
終了後にはパーティーが行われ、監督が自ら集めてきた賞品が順位順に配られた。これまた、幻の焼酎あり。高級肉あり。高級腕時計あり。スポーツ品ありと賞品の奪い合いで大いに盛り上がっていた。参加者全員に満足いく賞品が行き渡るように用意してあるあたりが、なんとも西村監督らしい心配りであるように思えた。
「マスコミの皆様に喜んでもらえたらと頑張って集めたよ。幸い、喜んでもらえたみたいだね。集めた甲斐があったよ」
楽しい一日はあっという間に終わり、気づけば日は暮れていた。招待されたマスコミの方々に見送られ、西村監督は帰路についた。
「マスコミの方々にいい報道を沢山してもらえるように来年、精一杯頑張ります。来年のオフ、また楽しいゴルフをしましょう」
ロッテファンのために、沢山のいい報道をしてください。それが西村監督がこの日、担当記者へ出した唯一のお願いとなった。そして、また来年の秋に笑ってゴルフが出来たらそれでいい。マスコミを集めての西村監督杯。毎年恒例の一大行事となりそうだ。
(梶原)